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コジカ。登録番号:不明。母:砂隠れのテマリ。 父:不明(一説によれば木の葉隠れの外交官)。
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BY「and I love you...」のmimsさま

[切なさの向こう側]切なさのこちら側]の後日譚。

*連載作品(全5話)













『切なさの果て 003』












コジカの励ましの声を背中で聞きながら、吹き付ける砂嵐の中を私は走り始めた。

心の中では、苦しみと喜びと自らに課した義務や根底にあるあいつへの愛情、切ない想いなどが

ぐちゃぐちゃに入り乱れ、狂ってしまいそうに騒いでいた。

だが、それらには全て目を瞑り、とにかく急いだ。

砂の舞う風の吹き荒れる中で砂地を進むのには 長年の暮らしでもうすっかり慣れているはず

なのに、その日はいつもより自分の足が重いように感じた。





風影邸に着いた私を迎えてくれたのは、里の上層部の面々が温かく微笑む姿だった。

中には 「テマリさま、おめでとうございます」 等と祝いの詞を伝えるものさえも居て、

私は大いに戸惑っていた。





———では、審議は可決か?





私は、慌てて風影室へと走った。

扉の前でひとつ深呼吸をして、二度ノックして声を掛ける。





「風影さま、テマリです」





謁見希望の意を伝えると 「良いぞ、入れ」 との返事が聞こえ、私は扉を開けて中へ入った。



そこには、風影だけでなくカンクロウの姿もあった。

私は自分の想いをふたりに一度に伝えられる良い機会だと思いながら、ゆっくりと言葉を発した。





「風影さまに、お伝えしたい事があります」



「何だ、言ってみよ」



「先程コジカの口から聞いた事についてでございます。

そして、つい今しがたに上層部の者たちから祝福を受けた件でもあります」



「お前、もう聞いたのか。では、話が早い」



「私は・・・お断りしたい、と思っております。風影さま」



「・・・・テマリ。もしや、既にあやつへの気持ちが変わったのか?」



「そりゃねぇじゃん、テマリ。コジカがいったいどんな気持ちで動いたと思ってんだよ。

あの子が可哀想じゃん」



「カンクロウ、少し黙っていてくれ。それから・・・テマリ、今は風影と呼ばなくて良いぞ。

お前の正直な気持ちを聞かせてくれ」



「・・・あいつへの気持ちが薄れた訳じゃないんだ。それは違うんだよ・・我愛羅。カンクロウも。

私は、あいつと別れてこの国に戻る時に、これからの人生は砂に捧げると決めたんだ。

コジカを産む事も、他里の忍と通じたことも受け入れてくれた風影さまとこの国に、

私の一生を捧げると決めたんだよ。だから・・・私は、木の葉へは行けない」





私がそう言うと、3人の間には緩やかな静けさが訪れた。

そして、やがて我愛羅がその沈黙を破った。





「お前は、この十数年の間、もう充分にこの国に尽くしてくれたではないか。

現に、ここにはもう素晴らしい忍がたくさん育っている」



「そうじゃん。コジカだってきっともうテマリよりも強いじゃん。

お前ばっかりが、そんな切ない想いすることないじゃん?」





ふたりの言葉も、その様子もとても優しくて、私は泣きそうな気持ちになった。

でも、やっぱり・・・私だけが我儘を通す訳にはいかない。

もしかしたら、コジカにだって辛い責務を負わせることになるのかもしれない。



だから、やっぱり・・・





「我愛羅、それでもやっぱり私は行けないよ。

そんな我儘を許されるような生き方はして来なかったから、例え許しを得ても無理だ。

私には出来ない・・」



「これは、同盟国の関係を強固なものにするという意図もあっての話だ。

それも、お前の娘であるコジカが、やっとのことで火影からの許諾を得てきたものだぞ」



「テマリがそれを断って、砂と木の葉との友好関係が崩れる方が問題じゃん。

そんなことになったら、テマリの通そうとしてることの方がもっと我儘になっちゃうじゃん」



「あぁ、カンクロウの言う通りだ。テマリ、どうかこの話受けてくれ」



「俺からもお願いするじゃん」



「・・・・・」





私は黙ってふたりの言葉を聞き続けた。

先程のコジカが言ってくれた言葉。上層部の者たちの嬉しそうな様子。

我愛羅の表情、カンクロウの口調。そして、私の気持ち・・・





私の本心はどうだ?どうしたいと思っている?

あいつの許へ本当に行きたいのか?それとも砂に残りたいのか?

もしかして・・・・

自信が無いのか?私は、あいつの心変わりが怖いのか?





私がじっと黙ったまま何かを考えている様子を、我愛羅もカンクロウも見守ってくれていた。

そして、私が俯いていた顔を少しあげると、ふたりが眸を射抜いてきた。





「テマリ。この風の国の為に、火へ身を置いてはくれぬか?」



「もう、木の葉からテマリの代わりに砂へ嫁いでくれる女性が決まってるじゃん。

なぁテマリ、心を決めてくれないか?」



「・・・・」



「どうだ?決められぬか?」



「なぁ、もしかして・・・テマリは奈良の気持ちを心配してんのか?

それなら心配ないじゃん。あいつは今でもずっとお前のこと思ってるに決まってるじゃん。

確かな筋から情報が入ってきてるんだから、それに間違いはないじゃん」



「・・・・」



「なぁ、テマリ。俺もそろそろ身を固めたい。そして、もしも誰かと結ばれるのならば、

木の葉の女性が良い・・・と、ずっと思っていたんだ。

今回、コジカの計らいで思わぬ話が纏まりそうになって、俺は本当に嬉しく思う」



「そうだぜ、いつも表情の変化しない我愛羅が、珍しく嬉しそうな顔をしたくらいじゃん。

そんな姿を見たのは俺もお前も初めてじゃん?」



「・・あぁ・・」



「日向家の白眼が、砂のものになるのだぞ?素晴らしいことだとは思わぬか?

門外不出の筈のあの能力を、砂へ申し伝えようと言う火影さまのご英断。

それ程までに木の葉はこの国との関係を密にしようと思ってくれている。

そのことに、俺は感動したんだ」



「お前の我儘だなんて誰も思ってないじゃん。そしてこれからも思わないじゃん。

むしろ、お前が木の葉へ行ってくれるのなら嬉しいくらいじゃん。

なぁ、我愛羅とコジカの気持ちも汲んでやってくれよ。

奈良だって、いつ木の葉に行っても砂の方向ばっかり眺めて切ない顔をしてるじゃん。

なぁ、テマリ。ここは、行っとこうぜ。それがこの国の為にも、我愛羅のためにも、

そしてコジカの為にも、木の葉のためにも、奈良のためにも、お前の為にもなる事じゃん」





私は、続けられている言葉を聞きながら、珍しく我愛羅がよく喋ったな・・・などと

考えられるくらいに、気持ちが落ち着いていった。





———皆の計らいが今の砂にとっての正しい事で、私は胸を張って木の葉に行ける。





それが嬉しくて、私は少しずつ幸せな気持ちになって行った。

そして、カンクロウが言葉を切った後で思い切ったように顔を上げ、二人の目を交互に

見つめると、私は小さく頷いて答えた。





「分かった・・・」



「行ってくれるのか?テマリ、ありがとうじゃん」



「・・・あぁ、行くよ。別に礼を言われるようなことじゃない」



「でも、ありがとう。テマリ」





我愛羅のその言葉を合図に、3人で顔を見合わせて少し笑った。

窓の外で吹き荒れていた砂嵐は急に静かになり、ガラスの向こうには温かく穏やかな

世界が広がっていた。



そして、今度はその我愛羅の咳払いで、その室内に静かで張り詰めた空気が流れ始めた。





「では、・・・風影として改めてテマリに任務を言い渡す。

砂からの使者として最後の仕事だ。心して務めよ。

この書状を、木の葉の火影へ届けてくれ。

そして、その任務終了後はもうこの国へ帰って来なくて良い。

火影の返答は別の者に受け取りに行かせる。宜しく・・頼むぞ・・・」



「・・承知、いたしました」





私はそう言って一礼し、顔をあげた。

私の目の前で両手を組んだ風影さまは、重々しい様子ではあるものの、

目元と口許が柔らかい曲線を描いていた。

隣に控えたカンクロウは、何度も頷きながら笑んでいた。

私は、音にならない声で(我愛羅、カンクロウ、ありがとう)と、唇を動かすと

ふたりの前を辞した。

後ろから、ふたりの 「「幸せにな・・・」」 という声が追いかけてきて、

私は振り返らずにその場を立ち去りながら、必死で歯を食い縛っていた。





そして、風影邸を出た後、旅の準備のために一旦家へ向かいながら、堪え切れず泣いた。

あいつに逢える喜びと、これまで人生を捧げて来た砂との別離の寂しさと、

胸に浮かんで来る様々な想いが綯い交ぜ(ないまぜ)になった不思議な涙だった。



家に入ると、上がって直ぐの所に小さな紙切れが置かれていた。





   『 母さまへ



   この家の事を含め、後の全ては私が請け負いますのでご安心ください。

   では、木の葉でどうぞお幸せに。

   いつまでも、母さまと父さまのご健勝とご多幸をお祈りしております。

   この空の下、共に———

                                                            あなたの娘、コジカ拝 』





和やかな美しい字が規則正しく並んで、そう書かれていた。

私はそれを読んで暫し涙ぐみ、此処に残していくあの子のことを愛しく思った。

そして、一緒に置かれていた御守りの中にその紙片をきちんと折り畳んで入れた。



それから半時程で支度を済ませ、コジカの御守りを首に掛けると、

私はまだ明るい内に木の葉へ向けて旅立った。



門を出る前に振り返った愛おしいこの街、そして遠く風影邸の屋上に米粒ほどの姿で

小さく見えている 3人の人影。

吹き抜ける一陣の風、降り注ぐ陽射し、そしてきっとそうだろう3人の優しい眼差し。

まるで私の門出を祝うように、私を取り巻く全てのものが輝いて見えた・・・











* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *











母さまの出国を屋上で見送ると、私は叔父様方と一緒に風影室へと向かった。



もうこの国に母さまが居ないこと・・・それは寂しくも切ないことだった、

けれど、母さまと父さまが一緒に幸せに暮らしてくれるのだ・・・と、思うとこの切なさも乗り切れる

ように思った。

何より、私が望んでしたことだ。どうかお幸せに・・・そう、心で唱えた。



風影室で叔父様はいつもの席に座り、机の上で両の手を組んで私の方を見られた。

私は促されるままに向かいに腰を降ろした。





「では、コジカ。お前に大事な任務を言い渡す」



「はい、風影さま」



「明朝木の葉へ向けて発ち、火影さまの返答を聞いて帰ってくれ」



「はい、承知いたしました」



「それから、この書簡を一緒に届けてくれ」



「・・・これは?」



「開いて中を確認してみろ」





風影さまの言葉を聞いて、私は眼の前のそれを手に取った。

中央で結ばれていた紐を解き、巻物の端を持って慎重に広げてみると・・・





   『 嘆願申立書



   六代目火影 はたけカカシ殿

   私、我愛羅こと風影の名をもって、以下の事項をお願い

   申し上げたく書を認め(したため)ます。

   先にお願い致しました風姫テマリの訪火について、万が一の事を鑑み

   失礼は承知でのお願いでございます事、予めご了承くだされば幸いです。



   彼女の性格から見て、もしかすると貴国にて直接お断りさせて頂くかも

   しれぬという一抹の不安がございます。

   もし彼女がその様な事を申しましても、お受け入れになられぬ様、

   お願い申し上げます。

   “風の国にはもう、お前の居場所はない。火の国にて精一杯つかえよ”と、

   風影が申し伝えていたぞと、テマリに告げてくださいませぬか。

   砂の風影として、彼女の肉親として、心からそちらで暮らさせて頂く方が

   彼女の為に良いと思っております。

   甚だ勝手なお願いではございますが、どうぞお聞き入れ下さいませ。



                                                                風影  我愛羅拝 』





美しく流れる様なその文字列を目で追いながら、私の瞳からは泪が溢れた。

我愛羅叔父様の抱えておられる、母さまへの深い愛情を感じた。

顔を上げると、我愛羅叔父様もカンクロウ叔父様も微笑んでいた。

だから、私も笑った。





「仰せのままに致します」





私は笑顔を崩さずにそう答え、(叔父様方、本当にありがとう・・・)と心の中で唱えた。

御前を辞して外へ出ると、暫しその場に立ち尽くして空を見上げた。





———母さま、お幸せに・・・





離れた空の下を木の葉に向かって急いでいるであろう母のことを想った。

上空の遥か彼方から、次第に青が朱に追い立てられて行った。

秋の夕暮れはたくさんの砂を優しく舞い上げる風と共に、ゆっくりと訪れた。

遠くの空では、その周りの全てを紅く染める陽の光が緩やかに沈んでいった。

その光に照らされ、私の胸の中までもが、紅く優しいその色に染まって行くような気がした。





その晩、私は久しぶりに夢を見た。











母さまと父さまと私は、木の葉で一緒に暮らし、毎日が笑みに溢れていた。



私には幼馴染みの男の子が居て、幼い頃から少し歳下のその男といつも一緒に居た。

毎日共に色んな事をして、彼は私に追い付く為に非常に努力をしていた。



私たちは並んで木の葉アカデミーに通い、私が卒業した年にまるで私を追いかける様に

彼は飛び級して一緒に卒業し、下忍編成で同じ班に配属された。



やがて私はその子に恋をして、自分の歳のことで思い悩んだ。



一年違いで中忍に昇格した私と彼は、二人で組みツーマンセルでたくさんの任務をこなした。

次々に名を上げた、私たちはまだ幼い内から皆に一目置かれた。



いつしか、私を女と見ている彼の視線に気付き、私の心は踊った。

彼からの口付けは優しく、そして温かかった。

そして私たちに幸せな日々が訪れた頃・・・







その夢は突然終わりを迎えた。





少し幸せな気持ちで目が覚めた私は、命じられた任務を遂行するために、直ぐに

出掛ける準備を始めた。

外はまだ夜明け前、薄墨を広げたような暗色の空が広がっていた。

その様子に、私は少し準備の手を止めて窓から見える空を眺めた。

そして頭の中では、先程の夢を反芻し、絵空事の幸せに縋った。



あれが夢でなく、現のことであれば・・・



ちらと掠めた考えを振り払うように、仕度をすると木の葉へ向かって出発した。

遠く木の葉の方向から、少しずつ昇り行く朝陽は、辺りを少しずつ明るく照らして行き、

その内に空は淡い朱色に染まった。

しんと静まり返った朝焼けの空に、足元に広がった果てしの無い砂の粒子はきらきらと輝いて、

まるで息を呑むほどに美しい光景だった。





———まるで、母さまと父さまの未来の隠喩のようだ。

願わくば、私の未来も美しいものでありますように・・・



そんな事を思いながら私は少しずつ歩みを進めていった。

靴の底から響いてくる砂の擦れる音が、さらさらと耳触りの良い音を奏で続けていた・・・・











003 fin

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