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コジカ。登録番号:不明。母:砂隠れのテマリ。 父:不明(一説によれば木の葉隠れの外交官)。
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BY「and I love you...」のmimsさま

*[切なさの向こう側]のシカマルver.です。









切なさのこちら側

 









突然、彼女に会えなくなった。




外交官として木の葉を訪れる人物を、国境の門まで迎えに行くと、そこに居たのは彼女ではなくカンク
ロウだった。
俺は、彼の姿を見た途端に 聞きたい言葉が胸の中で渦巻き始めていたのに、何故か一言も疑問を含ん
だ言葉を発する事が出来なかった。

———テマリはどうしたんだ?———

そう、聞きたかった。
胸の鼓動は激しくなり、口からは今にも言葉が溢れそうだった。
なのに俺は何となく口を噤んだ。
俺達の関係を、心に秘めていた想いを、見抜かれるのが怖かったのかも知れない。

俺とカンクロウの間を、秋のはじめの温かい風が吹きぬけていった。
道の端には、儚げな姿で咲いた秋桜の群れが、風にその細い首を揺らしていた。


「これからは俺が木の葉専門の外交をする事になったんじゃん、ヨロシクな」


そう言って、カンクロウは朗らかに笑った。
彼のその表情に感じる微かな憂いを、俺は気付かなかった事にした。


「・・・あぁ、こちらこそヨロシクっす」


返事をした後、2人の間には沈黙が訪れた。
肩を並べて火影邸へと黙々と歩いた。
互いの足が踏みしめる土に擦れる際の 無機質な音だけが響いていた。


「それにしても・・・意外じゃん。お前はきっとテマリの事を聞くと思ってたのに」


独り言のようなカンクロウの言葉に、心を見透かされた気がした。
でも、俺がずっと前から何となく感じてきた “砂にも木の葉にも余り歓迎されないだろう” こと。
忌み嫌われるであろう “俺達の関係” について、当人の俺が触れることは出来なかった。
俺は、一つ大きく息を吸い込んで、笑顔を作る。そしてカンクロウのほうを向いた。


「いや、カンクロウさんに代わって貰って良かったっすよ。アイツ人使い荒いし」


彼は気付いただろうか。
微かに震え、掠れていた俺の言葉に何か感づいただろうか・・・

少し不思議そうな彼の表情からは何も読み取れなかった。
そして再び訪れた沈黙の中で、俺はカンクロウが言葉を紡ぐのを待っていた。


「テマリはもう木の葉には出て来ない事になったんじゃん。
 ずっと身体の調子が優れないみたいで、しばらくの間は砂で内勤じゃん」

「・・・そうなんすか」


出来るだけ、何の気もこもらないように注意して、短い言葉で相槌を打つ。
具合が悪い??
この前此処に来たときも、そんな様子は見せなかったのに。
俺が気付いてやれなかっただけか??
とは言っても、彼女と会ったのはもう5ヶ月も前・・・桜の咲く春の事だ。

それにしても・・・俺に迎えの任務を命じた綱手様、人が悪ぃよな。
テマリが来ないなんて、一言も言ってなかったじゃねぇか。

彼女が居るとばかり思って、浮き足立っていた俺が馬鹿みたいだ・・・


「・・・そんなに沈んだ顔しないでくれじゃん」

「・・・へ?」


「俺よりテマリが良いのは分ってるけど・・・傷付くじゃん?」

「そんな事ないっすよ・・・」


無意識に沈んだ表情をしちまってたんだろうか・・・そんなんじゃ、忍 失格だな。
並んで歩いているカンクロウは、もっと何かを言いた気な顔で俺を覗き込んでいた。

そんな顔されっと、嫌な予感が浮かんできちまうじゃねぇかよ・・・
心の中でぶつぶつと文句を言ってる内に火影邸に到着し、彼に付いて火影室へ入る。


「ご苦労であった・・・カンクロウ、奈良」


俺は綱手様の顔をじっくり観察した。
彼女が今日の任務の詳細を俺に伝えようとしなかった訳を探るように、コチラに向けられた双眸を見つ
める・・・
気のせいか、何となく哀れみに近い表情を浮かべて俺のことを見つめ返すような気がした。
先程感じたのと同じ類の不安を秘めて、その眸は俺の心を探っているような気が・・・した。

カンクロウを火影室に残して、俺は先に退室した。
そして外に出ると、彼を待ちながら空を眺めた。
蒼穹を静かに流れていく真っ白な雲に、俺の不安を一緒に連れて行ってくれ・・・と、願った。




そして、俺は彼女に会えなくなった。




:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::




色付いていく木の葉を見つめ、隣に居ない彼女のことを思う。
色を纏った樹木の美しさが、通り抜けていく爽やかな陽気を孕んだ風が、そして不意に降り始めてこの
地を潤していく優しい雨が・・・
全てが彼女の記憶と結び付いていて、俺の心に去来し そして切なく消えて行く。

此処に彼女は居ない。

まさか、あの日。
“このまま会えなくなる”なんて、思いもしなかった・・・

過ぎ去る時が 心をいつか静めてくれる事を願いながら、日々を送る。
俺の前を、少しも記憶を薄れさせてはくれない風が吹き過ぎて行く。

そして、俺は・・・
取り残されたように彼女の記憶に縋る。

テマリ・・・
今、お前は何をしている?
俺を此処に残して、何処に行っちまったんだ・・・
なぁ、テマリ。

あの美しい笑顔はまだお前の中にあるのか?
お前の心は、いま 誰を想う・・・

二度と出会えないのか・・・
二度と俺にあの笑みを見せてはくれないのか・・・




:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::




自らの足元から聞こえる 砂を踏みしめる音。
じりじりと照り付ける陽射し。
熱と砂を孕んでは 吹き荒れる熱い風。
陽を受けて砂の表面から立ち上る水蒸気。
目の前に現れる陽炎に、彼女の姿を見せてくれ・・・と祈った。

あれから俺は何度も砂を訪れた。
そして、その度に彼女の姿を探した。

突然、まるで幻のように俺の前から姿を消してしまった彼女を・・・探した。

彼女がいつも心の奥で嘆いていた“二人の間に横たわる深い谷”を、俺も心から嘆いた。
空には美しい蒼が広がっていて、それがまだ俺達を繋いでいるような気がした。
ただそう思う事だけを、ささやかな慰めにして、俺は日々を遣り過ごす。


夕陽がきれいな宵の入り。
重なり合う厚い雲の隙間から漏れる、今にも消えうる橙の光。
それに照らされて同じ色に染まる雲の美しさ。

アイツもこれを見てくれていたら良い。
あの頃と変わらぬ美しい表情で、きっとこれを見ているだろう・・・
彼女の凛とした立ち姿、横顔に映るオレンジの光。
孤独を秘めた切ない記憶をその細い身体に刻んで、それでも背筋を伸ばしていた彼女。
そんな彼女の様子が、俺の記憶を塗り潰して行く。
切なくて・・・耐え難いほどに切なくて堪らなくなる。


俺はただ、茜に染まりゆく空を眺めているだけだというのに・・・


テマリの横顔の美しさは、黙って消えたその潔さを思い描かせる。
彼女の事を、俺は受け入れて遣れなかったのだろうか。

彼女の不在はその空の彼方に哀しい闇を呼び起こし、そして空は藍に染まる。
藍に染まった空は少しずつ黒に塗り替えられていく。
それに伴って、俺の心もモノクロに沈む。

心の片隅をそっと照らしていた陽は、すっかり姿を消している。

彼女にはもう二度と出会えないのか・・・

俺の心も沈み行く。
そして、感じることを拒んだ胸は、疼き始める。

俺の心に焼き付いたテマリの影は、今もあの頃のままで・・・
どこへ向かうことも出来ず、俺の中で重たい記憶が迷走し続ける。
疼き始めた胸の中で、ただ彼女の姿を追って。




せめて、彼女が幸せに暮らしてくれていれば良い。
俺のことを忘れてしまっても、生きていてくれ。俺のために・・・
こんな風にお前を想っている俺の為に。

誰か愛する人の傍で、ただお前が笑って過ごして居てくれれば、俺はそれで良い。
俺との日々・・・その遠い記憶に 苦しみを感じて毎日を過ごすのは止めてくれ。

そしていつか、全てが静まったその時に・・・
たったひとつで良いから、俺の我儘を聞いてくれ。

“あの時、俺の前から消えた理由” を。
こっそりと俺に教えてくれ。





:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::




あれからいくつもの季節が移ろいゆき、過ぎ去った時の中で 俺はまだ自分の中で蠢き続けている想い
に決着を付けられずにいた。

何度も砂の地で彼女の影を求めた。
だけど、まるでその姿がどこかに飲み込まれてしまったかのように、僅かな気配すら感じることが出来
なかった。




彼女と会えない十数年の月日で俺はすっかり歳を取り、今は新しい火影の元でその参謀としての立場に
甘んじていた。
俺の親しい友達は各々が伴侶を見つけて生活を共にし、今では幼い子供を連れて里を歩く姿を見かける
ようになった。

彼らがいくら心配して女を紹介してくれようとしても、俺は頑としてその申し出を受けず、自らの意志
で独り身を通していた。
そして、記憶の中でますます鮮やかに色付いて行くあの頃の彼女の姿を、飽かず求め続けた。


優しい風の吹く春には、一緒に見た桜とそれを見つめる彼女の翡翠の瞳を想い
暑い夏には、一緒に水浴びした湖で眼に焼き付いた彼女の肢体を想う。
木の葉の色付く秋には、落ち葉を乗せた美しい彼女の金色の髪を想い
真っ白な雪が積もれば、彼女の真っ白で艶やかなひんやりとした肌を想う。

そうやって、俺の前を季節は通り過ぎ 緩やかに月日が流れていった。


そんなある日。
木の葉の地で、背筋を伸ばして歩く一人の美しい少女を見た。
憂いを顰めた(ひそめた)やわらかい微笑を零しながら、凛とまっすぐ前を見て歩くその少女は、艶や
かな髪を吹き抜ける風になびかせながら、俺の居た特等席へと少しずつ近付いてくる。

俺はその場所でオフの大半を過ごしていた。
相変わらず、その場所でぼんやりと佇み空を眺めながら、心中では消え去った過去を想っていた。
そんな俺のことを皆が良く知っていて、俺の姿を探すときにはいつも一番に此処に来る。
その少女も、きっと誰かにその事を聞いたのだろう・・・

此処からは空がよく見えた。
そして何よりも、彼女との思い出があった。


俺の寝転んでいるすぐ傍まで来ると、少女は言葉もなく俺の瞳を覗きこんだ。
その粒羅な2つの光は、限りなく澄んでいて美しく輝いていた。



———艶やかな髪は、漆黒にたゆたい

———澄んだ瞳は翡翠に光る・・・



俺は心臓を射抜かれたように起き上がり、彼女の眸を見つめ返した。
そして、震える唇で言葉を紡ぐ。


「・・・名は、何と言う?」

「・・・砂の・・・コ、コジカと申します」


そう問うた時 俺の声は多分、掠れていた。
少女の醸し出す雰囲気が、余りにもテマリに似ていたから。
まるで、心の柔らかく敏感な所を掻きむしられるように胸が痛んだ。
少女は俺の隣に腰を下ろすと、優しい眼差しで俺を見つめた。

ずっと抱えていた、いつまでも治らない膿を持った傷口。
その傷口が、その少女の姿を見るだけ そして 見つめ返されるだけで癒されていく。
少しずつ傷が塞がっていく・・・そんな気持ちになっていた。


「コジカ・・・と言うのか」


少女の眸を見つめると、切ない記憶が一層色濃く蘇る・・・
顔を歪め、テマリのことを想い、そしてその少女の名を繰り返し呼ぶ。


「コジカ、コジカ・・・」


その名に含まれた自分の存在。

この少女は、テマリの娘・・・なのか?
彼女の潤んだ碧瞳は、翡翠の様に輝きながら俺を見つめている。
———お前の母は、砂のテマリか? と、俺は聞きかけて 止めた。
言葉で聞くよりも明らかな、久しぶりに見つめたその碧の眸に、抑えようとしても胸に留められない気
持ちが溢れ出す。


「・・・テマリは、彼女は元気にしているのか?」


頷きながら少女が俺に微笑みかけ、顔にかかった髪を掻き上げた。
その漆黒は俺のものとそっくりで、ますます複雑に絡み合った感情が胸に突き上げてくる。

少女の頬を伝う涙の雫を指で拭って遣りながら、俺も一筋だけの涙を流す。
俺の頬に向かっておずおずと伸ばされたコジカの手を取り、名を呼びながら胸に抱く。

少女からは、テマリとそっくりな 太陽を浴びて咲く花の香り がしていた。
その香りを鼻腔の奥深くまで吸い込んで、俺は少女の漆黒の髪に手をやる。
髪を撫で慈しみ、そして・・・俺は、テマリを想った。


「一緒に任務をしていた木の葉丸さんに聞いたんです、ここにおられるんじゃないかって。
 貴方にずっと会ってみたかった・・・奈良さん」


俺は、眼を閉じたままコジカの声を聞いた。
彼女の掠れたような低く優しい声は、まるでテマリがそこに居るような気分にさせてくれた。
俺の胸の中に愛しい女が居るような切ない気分に、つい彼女の背に回した手に力がこもる。


「・・・お・・父さん・・・苦し、い・・です」


胸の中でコジカが小さな声で言葉を紡ぐ。


「・・・っ!?」


———今、何て言ったんだ・・? 
その言葉の意味・・・直ぐには理解出来なかった。


「お父さん。・・・私、貴方の娘です」


コジカの口から零れ落ちる言葉に、俺は腕の力を弛めて彼女の顔を覗き込んだ。
その眸に映った夕映えの光が、今の言葉は真実だ・・・と、告げていた。

テマリの瞳と俺の髪を湛えて、コジカはやわらかく微笑んでいた。


「歳は、お前の歳は・・・いくつだ?」

「あと数ヶ月で13歳になります」


テマリと会えなくなったのは、13年と数ヶ月前。
では、あの最後に会った春 もう彼女の中にはこの子の命が・・・?

彼女の返答を聞いて、俺は溢れ出るものを抑えきれずに彼女をもう一度胸にきつく抱き締めると、その
ままの姿勢で泣いた。
まるで止むことの無い雨の様に、俺の眼からは熱い雫が次々と溢れ、そして零れた。

胸の中に、テマリの気配を感じた。

俺がコジカを胸に抱いているのか、それとも俺がコジカに抱き締められているのか・・・
少女は優しく俺の背中を撫で続けていた。

そして。
———こんな姿を見られたら、またテマリに笑われちまうんだろうな・・・

そんな事をぼんやりと思いながら、暮れて行く太陽に見守られているような気持ちで、
ただ泣き続けた。

その泪は
いつもより少しだけ・・・温かかった。




沈み行く陽の向こう、遠いその彼方に居るであろう彼女の事を思った。
彼女が一人で抱えていた想いを、切なく・・・

ただ 愛しく思った。




fin

 

 


2007/10/27
mims

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我ながら・・・ちと長い(涙)
いつも簡潔でそれでいて心に残る作品を目指しては、挫折してます(いやぁ、我ながら長いぞ。ダラダラして。)
あくあくさん、お忙しいのに即日UPして下さって嬉しいです。

あ・・・誤字、また見つけたんですがorz
メールさせて頂きますので、お手数ですが訂正お願いして良いでしょうか(涙)

それからAだ嬢からご連絡頂きました。お伝えくださってありがとうございました!!
mims URL 2007/10/28(Sun)02:05:35 編集
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松木さまより コジカまんが戴きました!

皆さまのおかげでサイトが潤っております!コジカ作品をお持ちでしたら、ぜひぜひ砂漠の花に水をやってくださいませ〜

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