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コジカ。登録番号:不明。母:砂隠れのテマリ。 父:不明(一説によれば木の葉隠れの外交官)。
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BY「and I love you...」のmimsさま

[切なさの向こう側]切なさのこちら側]の後日譚。

*連載作品(全5話)













『切なさの果て 004』













彼女の手を引いて火影邸に向かう道すがら、僕は独りぼんやり空を見上げている

奈良上忍の姿を見た。

その憂いを帯びた横顔は、僕の眼を捉えて離さなかった。



隣を歩く彼女の手首に力を込めて、僕は自分の方へ引き寄せた。

驚いた様子で僕の顔を覗き込んだ翡翠の瞳に、顎で彼の方向を指し示す。

すると、コジカは小さく頸を横に振って、口を開いた。





「今は、まだ良いのです。きっと母が・・・」



「お母様もこちらへ?」



「えぇ、そう・・・」





そう言って、何かを考える様に遠い空の果てを見つめて口を閉ざしている彼女を、

僕は黙ってそのままにした。



降り注ぐ陽射しは彼女の髪を照らして、つやつやと煌めかせていた。

優しい風はその漆黒の髪と長い睫毛を揺らしていた。

頭上に広がっている蒼穹が彼女の眸に映り込み、その眸は益々碧く輝いた。

僕は暫くその様子に見惚れれていた。



立ち尽くしている彼女を促し、僕は路傍の石の上に持って居た手拭いを広げると、

そこに彼女を座らせた。

その脇に僕が座ると、彼女は少し気にするように僕の顔を覗き込んだ。

そして、瞳だけで“ごめんなさい”と、謝る仕草をし、また空に視線を走らせた。



僕は彼女の美しい横顔と空とを交互に見つめながら、自分の胸の中で益々大きくなって行く

彼女の存在・それが指し示す意味につい、思考を巡らせた。



でも、いくら考えてもその答えは出なかった。

彼女の姿や仕草、その言葉やそれらを紡ぎ出す声音。

それらが全て僕の心を捉えて離してはくれない。

理屈ではなく、ただ彼女が気になるのだ。



そんな事を頭に巡らしながらも、僕たちから少し離れた所に居る彼女の父が、

気配に気付いてこちらへ近づいて来るのではないか?と思って少し不安だった。

振り返りそちらを仰ぎ見ると、彼も隣にいるコジカと同じように、相変わらず空を

見つめて何かを考えている様子だった。





その内に太陽の位置が少しずつ下がり、空はその色を変え始めた。

それに気付いた彼女が、空から僕へと視線をゆっくり移した。

返り見みると、いつの間にか奈良上忍の姿は消えていて・・・

そこに腰を落ち着けてから、もう2時間ほどの時間が過ぎているようだった。

彼女の翡翠の両眸が僕を捉えたのを見て取ると、僕はやっと口を開いた。





「そろそろ行きましょうか?」



「えぇ。ごめんなさい」



「何と言うか・・大丈夫ですか?」



「・・・はい」





僕は勢いを付けて立ち上がり、彼女の方を振り返ると少し笑ってみた。

僕に笑顔を向けた彼女に、手を差し出して「さぁ」と、促した。

彼女は少し戸惑った表情をしながらも、素直に僕の掌の上に自分の手を預けた。

遠慮がちに「ありがとう」と礼を言った彼女は、立ち上がって直ぐに手を引っ込めようとした。

僕はじっと彼女の眸を見つめながら指に力を入れて、彼女の掌を拘束した。



そうして、僕たちはそのまま手を繋ぎ、前に歩き出した。



掌から伝わって来る彼女の指の感触は、細くやわらかく滑らかで、

強く握ればそのまま潰れてしまいそうだった。

彼女を初めて見た時から昂なり続けて居る僕の心臓は、このまま彼女の傍に居たら

その内壊れてしまうんじゃないか・・・?と、思った。

でも、こうして感じている彼女の温もりを、二度と離すもんか・・・と強く思う気持ち。

僕は、黙って歩きながら、心の中で矛盾する様々な気持ちに苛まれていた。

それは、苦しく切なくも、とても幸せな気持ちだった。



時々隣に顔を向け、彼女の横顔を盗み見た。

3度に一度程は彼女もちょうど同じタイミングでコチラに顔を向け、視線が合わさった。

その幸せな偶然は、刹那に僕の心を躍らせた。

そんな彼女との幸せなひとときは、街の中心部に近付くに連れて減って行き、

やがて、どちらからとも無く繋がれたままだった互いの手を解いた。

じきに火影室の前に着いて、ささやかな充足感は終わりを迎え、ぷつんと途切れた。





「火影さま、使者殿をお連れいたしました」



「ご苦労。ふたりとも入りなさい」



「「はい」」





僕らは声を揃えて返事をし、その次の瞬間に顔を見合わせて微笑み合った。

そして、ふたりともが顔を引き締め、扉を開けた。



そこには、六代目の他に綱手さまの姿もあった。

その場に漂っている和やかな雰囲気に、僕はほっとして任務報告を済ませると、

彼女をその場に残して先に部屋から退いた。



この後は彼女を宿まで送っていけば、今日の任務は終わりだ・・・



ぼんやりと考えながら窓から覗いた空は、さっきよりもまた太陽の高度が下がり、

少しずつ青みを失っていくように見えた。

伸びやかに広がり行く淡い蒼穹には、真っ白な雲がふわふわと漂い、

その身を風の流れに任せていた。



僕は空を見つめながら、先程盗み見た彼女の横顔を思い出していた。

そして、もしかしたらちょっと面倒臭いことになったのかも知れないな・・・と、

思った。

その事に思い当たったとき、僕の胸はまた早鐘のように激しく早く鳴り始めた。





———もしかして・・・恋?





不意に浮かんできたその考えを振り払うように、僕は頭を掻きながら少し首を振った。

外から、穏やかな風が吹き込んで、僕の頼りない身体を飛ばしてしまいそうな気がした・・・











* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *











私は3日の道のりを歩き、身の回りを取り巻く色々な植物や風景を、ただ珍しく愛でた。

砂で16年生きてきた私には、木の葉は何度来ても不思議な国だ。



見渡す景色が砂に埋め尽くされている風の国とは、なんと違うことだろう・・・



そんな事を考えながら歩いていると、遠くに人影を見た。

木の葉の門に居る、私と背の高さも同じくらいの男。

彼が今日の案内役か・・・?そう、思いながら私は近付いていった。



少し近寄ってその姿を見ると、何故だか懐かしい風貌だと感じた。

私は、あの彼をつい最近見たような気がする・・・と、無意識に思っていた。

そして、自分のその感覚が可笑しくて、私は心で笑った。



彼にもう少し近付いて観察してみたが、何故“最近見た”などと思ったのかは分からなかった。

すぐ傍まで行くと、彼は私に声を掛けてきた。





「秋道です。遠い道のり、本当にお疲れさまでした」





優しい声だ、と思った。

何だかすぐに気を許してしまいそうだ。

私は、彼が自分よりも年下だという事で、どんな喋り方をしたら良いのか

ゆっくり思案しながら口を開いた。





「私は・・・コジカだ。秋道と言えば、奈良上忍のご友人の秋道チョウジさまと所縁の者ですか?」



「えぇ、秋道チョウジは僕の父です」





何だかおかしな喋り方になったが、彼は特に気にしていないようだ。

口数の少ない母さまが、時々話してくれた父の話に出てきた名前を聞いて、訳もなく嬉しかった。

私は、彼の穏やかな口調と声に少し気を良くして、どうしても聞きたいと思っていたことを

少しだけ胸を高揚させながら聞いてみた。





「そうか。奈良上忍は今もお元気ですか?」



「はい。お元気に難しい任務を次々と成功に導いていらっしゃいます」



「・・・それは良かった」





そして、火影室までの案内を頼むと、彼は快く道を示してくれた。

私達が並んで歩いている最中に、母さまと同じくらいの歳の男女とすれ違った。



何だか、彼らのことも見たことがあるような気がして、私は混乱した。





「「こんにちは、コジカちゃん」」





彼らが親しみ深げに私に声を掛けたことで、私の“見たことがある”感覚が裏付けられたような

錯覚に陥ったが、どう考えても私には出会ったことがある記憶が無かった。



———顔見知りのように懐かしく思うのに、出会った記憶はまったく無い。



何故、そんな風に思うのだろう?と、戸惑いながらも挨拶を返す。

すると私の戸惑いがまるで見えていたとでも言うように、隣に居た秋道が耳元で囁いて来た。





(・・・あれは僕の父と母だよ・・・)





そう言う彼の吐息が私の耳に掛かり、くすぐったかった。

暫く秋道の父上と母上の話に付き合い、私はその会話の中から父さまの影を探りながらも、

少し戸惑っていた。

そうしていると、まるで私の心中を察したかのように、隣から大きな声が聞こえた。





「これから、彼女を火影さまの所に案内する予定なんだ。だからもう行くよ」





秋道はそう言うと、行き成りに私の手首を掴んで歩き始めた。

私は突然の事に驚いたが、不思議と彼にそうされているのは嫌ではなかった。

むしろ心地良いとすら感じ、何となく前にも彼にこうしてもらった事がある様な気がした。

手首には彼の掌の温かい感触。





———背は同じくらいなのに、手は私よりずっと大きい。





そうして手を引かれながら、私は思い出したのだ。

秋道は、今朝の夢に出てきた私の幼馴染の男の子にそっくりだ・・・と。



そう気が付くと、途端に私の胸は高鳴って、まるで隣を歩く秋道にまでその音が

聞こえるのでは無いか・・・?と、思った。

繋がれた部分が急に熱を持ち、彼にそれが伝わってしまうのではないか?と思った。



私の気も知らず、彼は私の手を繋いだままにずんずん進んでいった。

そして、暫くしてから急に手首に力強い感覚を感じた、と思ったら、彼の方に身体を

引き寄せられていた。



私は何故彼が急にそんな事をするのか分からず、夢の中で彼と唇を重ねたシーンが

思い浮かんでしまって、少し身構えた。

すると、彼は顎でどちらかを指し示し、その先を辿ると父さま、奈良上忍の憂える姿。

私は、自分の胸に渦巻く想いを抑えて、母さまのことを考えると小さく頸を横に振った。

そして、きっと母が彼に会うはずだ・・・と伝えると、遠い空の果てを見つめた。

彼はそんな私を黙ってそのままにしてくれ、私はそれを有り難いと感謝しながらも

空を眺め続けた。

暫くすると、秋道が私を路傍の石の上に持って居た手拭いを広げ座らせてくれた。

隣に座った彼の温かい視線を感じた。





———きっと今頃、母さまが火影さまの所においでだわ・・・

         私のした事は本当に正しかったのかしら?





でも、いくら考えてもその答えは出なかった。



その内に太陽の位置が少しずつ下がり、空はその色を変え始めた。

それに気付いて、私はゆっくりと秋道のほうへ視線を移した。





———父さまはもう話を聞かれただろうか?

         随分と長い時間こうしていたような気がする・・・





立ち上がろうとする私に彼は笑顔を向けながら手を差し出して「さぁ」と、促した。

私は少し戸惑いながらも彼の掌に手を預けた。

触れた手はとても温かく、私は自分がずっと求めてきたものはこれだったのではないか?と

思い、また今朝の夢を思い出していた。





———また、あの夢が私を惑わせている・・・





私は、そんな自分を責め、手を引っ込めようとした。

すると、彼は私をじっと見つめながら指に力を入れて、私の掌を拘束した。



そうして、私たちはそのまま手を繋ぎ、前に歩き出した。



掌から伝わって来る彼の指の感触は、力強く骨ばっていて、なのに滑らかだった。

もっと強く握ってほしい・・・と、ぼんやりと思いながら苦しく切なく、でもとても幸せな

気持ちを味わった。



時々隣に顔を向けると、 3度に一度程は彼もちょうど同じタイミングでコチラに顔を向け、

自然に視線が合わさった。

その幸せな偶然は、刹那に私の心を躍らせた。

でも、こんな姿を誰かに見られては・・・という不安から、やがて、どちらからとも無く

繋がれたままだった互いの手を解いた。





火影室には、六代目の他に綱手さまの姿もあった。

誰かがついさっきまで此処に居た気配。

父さまだろうか・・・

その場に漂っている和やかな雰囲気に、私は少しほっとしながら、秋道が退出したのを

見届けるとゆっくりと口を開いた。





「ご無沙汰しております、火影様。そして綱手さま」



「あぁ、半年ぶりくらいなのかな〜。コジカは、また綺麗になったね」



「お前はまたそんな下らないことを!火影になってもその軽口は直らぬか?

それよりもコジカ、例の件だが・・・」



「はい。結論をお聞きする前に、風影から預かった書簡をお渡ししたいのですが」



「な〜に?また何か怖いことでも書いてあるのかな?どうぞ、見せてちょうだいよ」



「あぁ、是非見せてくれ」



「はい、畏まりました。これに御座います」





私がその書簡を取り出しお渡しすると、おふたりは顔を突き合わせてそれをお読みになり、

そしてやがては少しずつ顔が綻んで行った。

私はその様子を観察しながら、少しずつ胸の痞え(つかえ)が溶けて行くような気がした。

そして、読み終わると火影様が口を開かれた。





「コジカ、我愛羅は相変わらず心配性だね〜」



「今朝ほどお前の母が、そしてつい先程は父がここに来ていた。

風影さまの心配なさっているようなことは何もないから、お前も安心をし」



「・・・そう、ですか。良かった」



「はい、じゃぁこれね!ちゃんと奈良の承諾も得て、承認印を押した書面だよ」





そう言って、火影様の差し出された書面には、確かに





『 風影 我愛羅殿



         風姫を木の葉の策士に嫁がせ、日向の姫を

         砂の風影に嫁がせる。

         それをもって、両国の友好関係のますますの強化を

         図ることをここに約束する。



                                    六代目火影 はたけカカシ 』





と、書かれていた。

それを見て、私は父さまと母さまの幸せを思って涙した。

そんな私の様子を、五代目も六代目も優しそうに見つめていて下さった。





部屋を辞すると、その向かいの窓から青みを失っている空が見えた。

淡い蒼穹には、真っ白な雲がふわふわと漂い、その身を風の流れに任せていた。



そして、ぼんやりとその様子を眺める秋道の姿。

それが目に入ったとき、私は何とは無しに心が少しずつ癒されていくような気がした。

声を掛けると、弾かれたようにこちらを振り返り、私の目を見つめて彼は笑った。





「じゃぁ、宿まで送ります」



「宜しく頼みます」





彼に促されて火影邸を出ると、空は美しい夕焼けが始まっていた。

オレンジ色に染まる空に、同じように染まった淡いオレンジの雲。

そしてその彼方にはもっと濃い橙色に輝く沈み行く太陽の光。



秋の少し冷たい風に、さわさわと揺れている葉々は、黄や紅に色付いていた。

その鮮やかな樹木に見とれながら、彼に付き添われて私は歩いた。



その道程、途中でまた先程のように手を繋ぎ、私たちは時々顔を見合わせながら

言葉も無く歩いた。





遠く、先程私が長い時間座っていた辺りに、並んで座るふたりの影を見たような気がした・・・











* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *











彼女を送る宿までの帰り道、僕はまた自然と手を繋いだ。

彼女の掌はやはり温かく、そしてやわらかかった。

束の間の幸せを味わい、彼女に声を掛けて帰ろうとした時、突然声を掛けられた。





「私・・・昨日、秋道の夢を見たのです。

では、また明日・・・」





そう言葉を発すると、彼女は背中を見せて宿の奥へと去っていった。

僕は何を聞き返すことも出来ずに、ただ呆然と彼女の姿を見送った。





———僕の夢を見た?どんな夢だ・・・





そこからの家路、僕はただ先程の彼女の言葉ばかりを考えて歩いた。

明日もまた、朝から彼女に会えるんだ。聞いてみようか?





そんな事を考えて浮き足立っている僕の眼に、不意に何かが飛び込んできた。





薄闇の中で抱き締めあっている男女の影・・・

僕の眼に映ったふたりは、確かに・・・





少し幸せな気持ちを抱えながら、僕は歩き始めた。



夜風は頬に冷たく、でも馨しい金木犀の香りを孕んでいた。

徐々に暗く成り行くその空に、ぽっかりと青白い月が浮かんでいた・・・











004 fin

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