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コジカ。登録番号:不明。母:砂隠れのテマリ。 父:不明(一説によれば木の葉隠れの外交官)。
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BY「and I love you...」のmimsさま

[切なさの向こう側]切なさのこちら側]の後日譚。

*連載作品(全5話)











『切なさの果て 002』










久しぶりの休暇中、俺はいつもの様に特等席に寝転んで、のんびり空を眺めていた。



流れる雲は何処までも白く、そして広がる空はただ青く澄み渡っていた。

微かに聞こえて来る、葉が揺れてさわさわと言う音。

時折視線を横切り、爽やかな鳴き声を落としていく鳥の姿。

仄かに漂って来る、金木犀の香り。

吹き抜ける風はまだ温かく、降り注ぐ陽射しはやわらかい。

穏やかでゆっくりとした秋の一日が、少しずつ過ぎて行った。



俺は空を見ながら、テマリのこと、コジカのことを考えていた。

独りでゆっくり出来る時間があれば、殆ど意志に関係なく思考はそちらへ向いた。

そして俺は飽く事もなく、遠い空の下にいるふたりの女の事を考える。



今いったい何をして過ごしているのだろうか。

何を想っているのだろうか。

何を見、何を聞き、 何に触れているのだろう。

辛くはないのか、幸せだろうか・・・



そんな事を考えている俺の元に、その切ない思考を邪魔する 迎えの人間が現れた。

火急の用件で火影さまが奈良上忍に呼び出しを掛けている・・・と言う。

俺は慌てて立ち上がり、突然の動きに眩む頭を抱えながら、腰にくっ付いて来た草を祓った。



出来る限り急いで火影室を訪れ、入室の意を伝えると、中からはのんびりとした呼び声が

聞こえてきた。

中に入ると先客が居て、血相を変えた俺の顔とは対照的な柔和な表情を浮かべ、

談笑している現火影と五代目との姿が眼に入る。

その様子を見て、俺は先程から張り詰めていた気が 一気にすーっと抜けてしまうのを感じた。





「何事っすか?」



「奈良、お疲れさん。まぁ座んなさいよ」



「そうそう。今回ばかりは“めんどくせぇ”なんて言ってられないよ」



「・・・」





———んな事言ってても、ふたりは全然慌ててねぇじゃんか・・・

         でも、反論すんのもめんどくせぇな。





頭に浮かんだ思考を振り切って、俺は黙って六代目の向かいに歩み寄った。

そこに備えられた椅子に腰を下ろすと、五代目が会話を切り出した。





「ときに、奈良。お前、もうそろそろ身を固めるつもりはないか?

もう、三十路を過ぎているであろう?」



「そうだよー。お前程の男がいつまでも独り身で通してるなんて、

ちょっとおかしいんじゃな〜いの?」



「いえ。俺の気持ちは・・・・五代目も六代目もご存知っすよね」



「あぁ、だからこそだ。お前にとって、決して悪い話ではないと思うぞ?」



「全てを見た上で断りたいって言うんなら、その時はお前に任せるからさ」



「・・・・」



「私もお前を信頼して、奈良しか適任は居ないと思うから言ってるんだ」



「だーから。今回は黙ってこの話を受けた方が良いと思うけどね」





そう言って、火影さまは柳の様な柔らかい曲線を描く眉を尚 円く弓なりに緩ませると、

片の瞳を凝らして俺を見つめた。





「いいえ。何と言われても俺はテマリ以外の女と夫婦になるつもりはないっすよ」





俺がそう言うと、ふたりは俺の顔に合わせていた視線をゆっくり外した。

そしてお互いの顔を見合わせて、ほんの少し笑ったように見えた。

本当に微かな表情の動きは、もしかすると俺はただ錯覚したのかもしれないと

思わせるものだった。

次の瞬間、綱手さまは少し表情をきつく引き締めて、思案深い低い声で

また言葉を発した。





「知っているか?・・・・まぁ、お前はこう言う類のことには耳聡くないのだったな。

噂話は範疇外だろうし、極秘事項だから耳に入ってなくても当然だがな・・・

今度、日向家の次女が砂へ嫁ぐ事になったんだ。

それで、代わりに砂からもこの里に一人 女が嫁いで来ることになってな」





五代目がきつい眼付きから笑顔へと表情を崩しながらそう言うと、続けて六代目が口を開いた。

俺はただ黙ったままふたりの言葉を聞いていた。

表情や仕草から漏れ伝わる、この話の裏を探る様な気持ちで、次に来る言葉に備え、

気を引き締めた。

余りに固くなり過ぎたのか、自分の顔が強張るのを感じた。





「俺は是非お前の所に嫁がせたいと思ってるんだけどね」



「・・・・」



「風影のたっての希望でな、木の葉の策士に是非ともとの有り難い話だぞ。

それに、女本人もお前に焦がれているらしい。どうだ、心は動かぬか?」



「たまには大人しく俺と五代目の言うこと、聞いてちょうだいよ」



「いくらお二人の望みでも、これだけは譲れません」



「そうか・・・写真があるぞ、見てみぬか?」



「多分、これを見たらお前は絶対断れないと思うよ。

騙されたと思って、この写真だけでも見てよ、ね?」



「いえ、例えどんなに美しい女でも、俺には心を変える気などな・・・・っ!」









ふたりが微笑を浮かべながらそっと取り出した写真には・・・





———ずっと



愛しく焦がれていた女・・・









テマリの笑顔があった。









「どうだ。これでも嫌だと言うか?」





含み笑いを噛み殺すような表情で俺に声を掛けた五代目に、俺は心から驚いた眼を向けた。





「お前、コジカに会ったらしいな?あの娘が此処に嘆願しに何度も来たんだよ」



「母さまと父さまを幸せにしてあげたいんだって。

良い娘を持ったもんだね〜。可愛いし賢い上に優しくて。ね、これなら奈良も断れないでしょ?」





まだ驚きから抜けられず、言葉も出ない俺に、ふたりは笑みを掛けた。

俺を取り巻いている空気の温度が、少しだけ上昇した様な気がした。

不意に胸に込み上げる湿っぽい切なさの作用。

それが溢れないように、俺は奥歯をギリッと噛み締めた。





「いい?じゃぁ承認印、押しちゃうよ?」





火影さまの左眼に、からかう様な明るい色が宿っていた。

喉のもっと深い部分が締め付けられるような感覚。

思考回路が麻痺してしまうような、心許無い気持ち。

今にも消えそうな声を何とか絞り出し、俺は問いに答えた。





「・・・はい」





———今更・・・



冗談だよ、と言われるんじゃないか?

そんな不安が心をよぎった。



その俺の気持ちをよそに、火影さまは俯いて黙々と行為を続けていた。

呆然とした儘の俺の目の前で、火影さまは朱肉へと手を動かしながら俺の様子を伺うように、

一度顔を上げた。

そして、これ以上は無い程のやわらかい笑みを浮かべると、再び俯いた。



やがて、その印の押される力強い音がその部屋いっぱいに響いた。











* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *











僕は、毎日布団に潜り込む度に脳内を埋め尽くす彼女の影に、苦しくなるほどに

囚われながら日々を過ごした。

月夜に浮かび上がった彼女の白い肌、冷たい夜風に舞う砂をきらきらとその身に纏って、

闇を見つめてただ立っていたあの横顔。



あの時の彼女の心には何があったのか。

考えた時、その答えは見つからなかった。

そして、こんな風に彼女に固執している、僕自身の感情の流れさえも読めなかった。

自分が何を望んでいるのか・・・それすらも、全く見えなかった。



ただ感じているのは、彼女へ向かう自分の心中の想い。

ただ見つめているのは、過ぎ去った彼女の面影。彼女の心に渦巻く、哀しみの理由。





僕は、いったい何がしたいんだろう・・・









そしてまた、彼女と任務を共にする機会があった。



あれからもう半年。

僕はまだたった二度しか見ていない彼女の姿を、いったい何度反芻したことだろう。

今でも、すぐ傍に彼女が居る・・・そう錯覚してしまう位に彼女の印象は鮮やかだった。



今年中忍になった僕は、単独で外交絡みの仕事を任されるようになった。

そして、今日は砂からの使者として木の葉を訪ねて来る彼女を、案内役として国境まで

迎えに来ていた。



不意に近づいて来る気配。

顔をあげれば、そこに彼女の姿があった。

意志の強そうな切れ長の瞳が、太陽の光を浴びてまるで翡翠のように輝いていた。

陽射しの強い国に住んでいるとは思えないほどに色素の薄い透き通るような肌。

そして、艶々と煌いて風に靡く漆黒の長い髪。

強さと優しさ、不安と喜びの入り混じったような彼女の表情は、溢れ出る知性と好奇心を

隠せない様子をしていた。

彼女から紡がれる品のある言葉は、僕より3つ年上なだけとは思えないほどに落ち着いていた。

そして、可愛らしさを含んだ優しい声音が、尚更僕の心を彼女の虜にして行った。





「秋道です。遠い道のり、本当にお疲れさまでした」



「私は・・・コジカだ。秋道と言えば、奈良上忍のご友人の秋道チョウジさまと所縁の者ですか?」



「えぇ、秋道チョウジは僕の父です」



「そうか。奈良上忍は今もお元気ですか?」



「はい。お元気に難しい任務を次々と成功に導いていらっしゃいます」



「・・・それは良かった」





彼女は、感慨深げに美しいその両目を瞬かせながら、そう一言だけ呟いた。

その様子を見ていると、僕はどうしたら良いのか分からない程に、鼓動が早まっていった。

でも、彼女は何かを吹っ切ったように顔をあげ、既にしっかりと前を見つめていた。





「迎えに来てくれてありがとう」



「いえ、それが僕に命じられた任務ですから」



「・・・ん。では早速で悪いのですが、火影さまの所まで案内して頂きたいのです」



「分かりました。では、こちらへ」





そう言って僕達は並んで歩き始めた。

彼女は至る所で咲き乱れている草花に、いちいち興味を示している様子だった。

それで僕は彼女が歩みを弛める度に一緒に立ち止まり、その草花の各々について説明をした。

名前や、特徴。どんな時に用いられるものなのか。そして、どんな香りなのか。

僕が言葉を紡ぐたびに彼女は感心したように相槌を打って、近付いては匂いを嗅いだ。



心の中ではお袋に感謝していた。

花なんて、男が憶えることじゃない・・・と、反発を覚えながらもお袋の言葉を聞かされていた。

そのせいで、僕は今彼女とこんな風に話が出来る。

それがとても有り難いことなんだと、しみじみと思った。



彼女はとても嬉しそうで、それを見られただけで僕は幸せだった。

そして、その道中で任務帰りの親父とお袋にすれ違った。

彼らは少し疲れた様子だったが、笑みを浮かべながらこちらへ近付いてきた。





「「こんにちは、コジカちゃん」」





ふたりが声を揃えてそう言うと、彼女は幾分戸惑った様子で挨拶を返した。

それで、僕は彼女の近くに寄って 「あれは僕の父と母だよ」 と、耳打ちした。

触れそうに近付いた彼女の髪からは、まるで咲き乱れる花のような馨しい(かぐわしい)香りを

感じて、僕は胸がまた高鳴るのを感じた。





「秋道さま、いのさま。はじめまして、コジカと申します」



「そんなに改まることなんてないのよ〜」



「そうだよ。君には、まるで自分の娘のような親近感を感じているんだ」



「・・・ありがとうございます。誠に光栄ですわ」



彼女は、他人事のような調子でそう言った。

心の中に芽生えた彼女の戸惑いは、僕ら三人にも伝わってきた。

僕は彼女の戸惑いを払拭したいという気持ちを込めて、いつもより少し大きな声で喋った。





「これから、彼女を火影さまの所に案内する予定なんだ。だからもう行くよ」





僕は行き成りに彼女の手首を掴むと歩き始めた。

親父とお袋に後でからかわれるだろうとか、彼女を余計に驚かせてしまうだろうとか、

そんな事は何も考えられなかった。

強く繋がっている彼女の手首から、僕の掌へは温かくやわらかくびっくりするほどの華奢な感触がじんわりと伝わってきた。



———まるで直ぐにでも壊れてしまいそうだ。



それを意識したとき、僕の心臓は今にも破裂してしまう程にドキドキと激しく鼓動を刻み始めて、僕はその自分の胸の中に起こっている事態に戸惑っていた・・・











002 fin

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