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コジカ。登録番号:不明。母:砂隠れのテマリ。 父:不明(一説によれば木の葉隠れの外交官)。
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BY「Anemone」の草貫かえで さま







もし自分に孫が出来たら、女の子がいい。

いつの間にか孫が出来てもおかしくはない年齢にまで老いたシカクは、近頃よくそう思うようになった。
忍業も引退間近、息子はもう一人前の忍。手のかかることがなくなれば淋しいものだ。
よって、新しく夢中になれることはないだろうかと考えた結果。シカクは大切な事を思い出したのだ。

「シカマル。俺はいつでも心の準備は出来てるからな」

1人息子である、シカマルは。いつの間にか三十路を過ぎ、一人前の上忍になった。
役職も安定。収入もそれなりにある。顔は俺に似て男前。それなりにモテるが彼女がいる気配は、ゼロ。


「うっせーな親父。息子に期待するより自分でなんとかしたらどうだ?」
「こらシカマル!ふざけたこと言ってないでとっとと任務行きなさい!上忍がそれじゃ里の未来もないわよ!」
「はいはい」
「ハイは一回!」
「.........」

本人は全くと言っていいほど興味がなく。寧ろ一生独身を貫こうとさえしている気がする。
それは少し淋しいじゃないかと、以前ヨシノに零してはみたが。
ヨシノはお見合い写真をシカマルに見せる毎日、俺は好きでもない女と結婚するんじゃねぇと反対する毎日。
そして当の本人、シカマルは。
写真を見ることもなく、少しの興味も示す事なく。あくびをしながら俺とヨシノのやり取りを聞いているだけだった。


孫が欲しい。ただそれだけではないが。
シカマルが所帯を持ちたがらない理由は、なんとなく分かる気がする。
きっとシカマルには、もうずっと前から、忘れられない女がいる。


「シカマル。今日は遅くなるの?」
「あー、今日は里内だから遅くはねぇと思う。」
「里内で?何の任務?」
「砂から、新人の使者が来るらしい。で、世話役」
「失礼のないようにしなさいよ」
「わーってるよ」

ヨシノとシカマルのやり取りを目の前でぼうっと聞きながら、ふとあることを思い出す。
昔町でよく見かけた、大きな扇子を背負った華奢な背中と、息子の後姿。

(......砂、ねぇ。まさかな)

もうずっと何年も見ていないそのツーショットが鮮明に浮かび上がる。
期待をしているわけではないが。彼女はもう息子を愛してはいないのだろうか。

もし嫁を貰うなら彼女が良い。そして孫も女がいい。シカクは淡い期待を息子に賭け祈るだけだった。





幸せへのけもの道 (KOJIKA 〜another story〜)






それから3日後の晩の事。
いつも通り任務から帰ったシカマルは、珍しく自室には上がらず真っ直ぐに食卓に着いた。

「あら、お帰り。早かったのね」

ヨシノが言う。シカマルの様子がいつもと違うのは、一目瞭然だったが。敢えて聞かずにいつも通りに接した。

「飯は?」
「今から」
「飲むか?」
「ああ」

いつも通りの、淡々とした口調。
その会話を台所に立ちながら聞いていたヨシノは、無言で冷えたビールを冷蔵庫から取り出し、テーブルに置いた。

カチカチと時計の針が動く音がする。
昔から3人だけの家族なだけに、静かなことは当たり前だったが。
今日はいつもよりも、静かだ。ヨシノもきっと、気付いている。

(......三十路になっても、子供なんだな)

息子を目の前にしてぼんやりと、そんなことを思った。
それはそうだ。息子というものは、何歳になっても、自分が歳を老いても、子供なのだ。

静まり返る食卓。味噌汁の匂いと魚の焼く匂いが腹を空かせるが、誤魔化すようにビールを一杯軽く飲んだ。


「......親父。母ちゃん。話がある」

ようやく口を開いたシカマルは、やはりいつも通りではなくて。
両手をテーブルに置きひとつに組み、真剣な顔付きで俺を見た。

ああ、こいつも歳をとったなと、呑気にそんなことを思うと同時に、 心のどこかで淡い期待を抱いていた自分は、少しだけその先が楽しみになった。


「なんだ。珍しいな」

グラスを置き、茶化すように言う。
けれどシカマルは表情を変えずにまた、滅多に見ることのない真剣な顔で言った。

「3日間、砂隠れから来る新人の使者の世話を、火影様に使命されて俺が受け持っていた」
「ああ」
「その、砂隠れの使者っつうのが、実は、」
「.......」

また、沈黙。ヨシノは席に着かず、炊事場で魚を焼いている。
俺はと言うと。珍しく息子から話があると言われ緊張するのかと思いきや、意外とそうでもなく。
この歳になって真剣な話くらいないとな、と。ニ杯目のビールを飲み干し思った。




「..............俺の、子供だった」


ごくり、炭酸が泡を弾き喉を通過する。空腹のせいか、最早頬が微かに熱い。
実の息子の、声を。俺は聞き直すことも、驚くこともせず。
ただ真っ直ぐに、息子の真剣な瞳を見た。

(.........................子供?)


「突然で嘘みてぇな話だけど、本当だ」

魚を焼き終えたのか、ヨシノは魚を皿に盛りテーブルに置き、そのまま席に着いた。
俺は黙って息子を見て、息子もまた、こちらを見ている。
突然降って沸いたかのような話に、俺もヨシノも困惑するかと思いきや、そうでもなく。

落ち着いて、息子の言葉を待つ。普段から口煩いヨシノも今日は、何も話さない。


「認知しようと思う。出来れば引き取りたい。親父と母ちゃんには世話になると思うけど、いいか?」


結論から話す事は、シカマルの性格上分かってはいたけれど。
子供が出来た、わけではなく。いた、のだ。もう何年も前からずっと。
認知することは、男として当たり前だ。けれど大事な事は、そうじゃなくて。

「相手は?」
「あ?」
「お前1人じゃガキは出来ねぇだろう。相手は誰だ?」
「...........砂隠れの、風影の姉だ」


(...........ああ、やっぱり)
思い出し、思い出す。金色の髪を四つに束ねて、姿勢良く綺麗に歩く砂隠れのクノイチ。
何度か家にも来たことがあったが、シカマルがまだ中忍になったばかりの頃の事が強く印象に残っている。

『傷付くのが怖いのか?』

世の中にはこういう女もいるんだと、援護についてくれたのが彼女で良かったと心から安心した。
情けない、弱虫な我が息子を。厳しく正しい言葉で叱ってくれた。

その彼女が、1人きりで子供を産んだ。息子にも言わずに、1人で決断した。
親だからこそ分かる。子供を育てることは安易な事ではない。


「その姉ちゃんには、話したのか?」
「何を?」
「お前が引き取る事を」
「話してねぇ...と言うか、正確に言えば話せねぇ。もう10年も前に、突然連絡が途絶えた」
「.......その子供は今何歳だ?」
「今調度、10歳だ」
「.......」
「その子によると、ずっと国外の任務に就いていて、里に帰るのも年に一度くらいらしい」


何故、そのような事になったのか。どうして彼女がそのような扱いをされなければいけないのか。
大体予想はつく。きっと彼女は沢山悩んだ。沢山泣いた。沢山のモノを1人で抱えた。

(......なのに、コイツは、)


「お前ももう、ガキじゃねぇんだ。どうしてそうなったのか、お前も分かってんだろうが」
「........」
「お前の気持ちなんぞどうでもいい。女が1人きりでガキを守ったんだ。その彼女の気持ちを尊重させることが、第一じゃねぇのか?」
「........」
「認知して責任とったつもりでいんのか?ふざけんな。大切なのはそんなことじゃねぇ」

言いたいことはもっともっと沢山、山ほどある。
けれどもそれ以上言葉が出なかったのは、シカマルが余りにも、真っ直ぐに。
それでいてとても穏やかな顔を、していたから。


(......ああ、コイツは、)

まるで、何年か前の自分を見ているようだと、不覚にもシカクはそんなことを思った。
ヨシノがシカマルを身篭った時、俺はまだガキで。半人前の、大人だったから。

ヨシノは一言も口にせず、また炊事場に戻った。俺はまたビールを飲み、シカマルの言葉を待つ。
ゆっくりと、確実に。時間は進んでいる。いつの時代もそうだ。親が子を成長させるのではなく、子が親を成長させる。


「...分かってる。俺の知らないところであいつはきっと沢山、傷付いた。だから今度は俺が、全力で2人を守る」
「........」
「血の繋がった、家族だ。幸せにする」

真っ直ぐに、真っ直ぐに、想いを伸ばして。
実の息子であるのに、そうでないような。成長したのは、息子か、それとも。


(..........全く。言うじゃねぇか。ガキのくせに)

シカクはふっと笑みを零し、母ちゃん酒だと、ヨシノに酒を持ってこさせた。





それから俺は、ゆっくりと時間をかけシカマルが生まれる前の色々な出来事をシカマルに話した。
最初は両親に反対され説得するのに必死だったとか、喧嘩してヨシノに重症を負わされたとか。
始終シカマルは頷きたまに笑みを零していたが、時たますごく不安そうな色を漂わせるので、迷わず問うた。

「怖いか?」
「何が?」
「突然自分の子供が、目の前に現れて。」
「....別に。怖かねぇけど、ただ」
「ただ?」


「親父はいつから、親心っちゅうもんが芽生えたんだ?」

余りにもシカマルが真剣にそう問うので、俺は思わず飲んでいた酒をテーブルに置く。
シカマルとこのような話をするなんて考えてもいなかったが、たまにはいいものだ。
間を置き、考える。ヨシノの顔がちらつき、シカマルが生まれた当時を思い出した。


「俺は女じゃねぇからな。お前が生まれる前はまだ、正直実感沸かなかったなぁ」
「.......」
「けどな、生まれたてのお前を抱く母ちゃんを見て、涙が出たんだ。何でだろうなぁ」
「...親父」
「男は情けねぇけど見てるだけで、何も出来やしねぇ。けどな、役割はきちんとある」
「......」
「守る。何があっても守る。女がいなけりゃ世の中上手く周らねぇんだ。絶対に死なすわけにはいかねぇって、そん時誓ったな」

蘇るのは、静かな病室の窓から注ぐ、温かい光。
赤ん坊のシカマルは小さな小さな手でぎゅっと、俺の指を握った。


「その時かな、初めて親という立場になってお前を見たのは。」
「.......へぇ」
「と言うか、単純にな、」

咳払いをし、お猪口に注いだ酒を飲み干す。
ヨシノが焼いた魚は当に原型を留めず、骨だけになっていた。


「惚れた女との子だ。可愛いに決まってる」


——————なぁ、母ちゃん?台所に立つヨシノは、くすりと笑みを零した。





次の日。我が家にやって来たのは、黒い髪に翡翠色の目をした、小柄な少女だった。

「初めまして。砂隠れから参りました、コジカと申します」


ヨシノは無言で少女を抱き締め、よく来たわねと目尻に涙を浮かべた。
俺はやはり男で、突然現れた少女に触れることは出来なかったが。
だけど少女は誰かを思い出させる懐かしい笑顔で、こう言う。

「母には私からきちんとお話しします。だから、心配しないで下さい」

驚くほど大人びた姿勢。言葉使い。立ち振る舞い。
まだ10歳という幼さなのに、環境が少女をそうさせたと思うと、やはり胸が痛かった。


それからの事は、シカマルと少女が話し合った結果。少女は変わらず砂隠れに住むという事になった。
それはやはり、生まれて育った大切な里で。そう思うのは当たり前で、仕方がない事。
何より母親がそこにいる。少女がそう選択するのは、予想されていた。

けれどもやはり、淋しいと思うのは。
初めての、待望の、孫だからか。俺はすごく淋しい顔をしていたらしく、ヨシノに笑われた。



「第二の家だと思って、遠慮せずいつでも来なさい。家族なんだから」

砂隠れに帰る少女を見送る日の事。
ヨシノが今まで見たことのない笑顔で少女の頭を撫で、俺は涙腺がゆるんでゆく瞬間が自分でも分かったが、誤魔化すように少女の頭を撫でた。
すると少女は、可愛い子供らしい笑顔でこう言う。

「はい。ありがとうございます、おばあちゃん、おじいちゃん」


涙が零れ落ちそうになったが、それもまた我慢し。少女の姿が完全に見えなくなるまで見送った。




「やっぱりいいなぁ、女の子は」

帰り道。ヨシノと肩を並べて歩く。
俺はポツリ、ひとり言のように呟き、ヨシノは隣でそうねぇと笑う。


「もう1人、頑張ってみるか?母ちゃん」

冗談交じりで、怒られる覚悟でそう言った筈なのに。
ヨシノはふふふと笑い、お父さんがもうちょっと若かったらねと、肩を軽く叩くだけだった。



fin*

(2008.02.06)
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