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コジカ。登録番号:不明。母:砂隠れのテマリ。 父:不明(一説によれば木の葉隠れの外交官)。
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BY あくあく









————まだ蕾のままの花を、育てている。







「この時期ならまだ、処置は可能だが」
「何言ってるんだ。産むに、決まってる」

最初に発された質問と、ずっと用意していた回答。

私の腹が膨らみだして、上層部はやっと起きている事態に気がついた。
他国への体面を保とうと考えたのだろう。外交任務からはすぐに降ろされ、
かといって戦闘任務もままならず、里の本部内で情報分析を担当している。

それ以来、この腹に宿った命の父である男とは会っていない。
ひょっとしたら二度と会えないのであろうな、とも予感する。

私は産まれてくる子とさえ引き離されるのだろう。

事実が発覚してすぐ、上層部の間では非公開の査問が開かれた。
そこで聞かされた説得か、でなければ脅しのような言葉たちを思い出す。

「どのみちお前の手を離れることになるぞ」
「出産後、すぐに任務に戻ってもらわなくてはならぬ」
「引退したくノーのもとで忍となるべく育てられるだろう」
「お前のような手だれを、子育てという職に専任させるわけにはいかないのだ」
「………人手不足だからな、いつだって」

けれどガンとして譲らない私に、彼らの怒りは諦観へと昇華されていく。

あの男との関係が閉ざされる絶望の中で、私は強くなる自分を自覚した。





——眼前に山と積まれた資料の、まずは索引にざっと目を通し。
岩の国に少しでも関連していそうな頁に付箋を挟み込んで、
次の外交任務に向かう忍の助けになる資料を作成するために、
最新の報告書と統計資料を照らし合わせ、現状を分析する。

時おり筆を置くと、あまり外を出歩かないせいでまた白さの増した掌で
そっと命の宿る場所に触れる。時々、微かな胎動のようなものを感じる。

この擦る掌の下で、まだ眠っている命の芽が
いつの日か私に代わって、あいつの未来を見てくれるかもしれない。

本来願っていたように、普通の女と普通の結婚をして
けれど忍としては普通とはとても呼べない立場まで昇り
私との日々が沈んだ月のように忘れ去られても
あいつはいつまでも空を眺めては雲をその目に追い続け、
産まれてくる子はいつか、円熟の刻まれたその横顔に出会うのだ。

弟たちなら再び木の葉を訪れることもあるだろうけど
あいつらが見ることができるのは、きっと既に止まった過去だけ。

……この腹がもとに戻った時に。
私が木の葉に関わる任を言い渡される可能性は、限りなく少ない。

それでも、戦闘小隊を率いる立場に就くことが予定されている私が
やはり隊のひとつを指揮する奴と任務を共にすることもあるかもしれない。
そこで変わってしまった瞳の輝きを直視するのは、一体どんな気分なのか。
恐いだろうか。悲しいだろうか。それとも吹っ切れた空虚だろうか。
いや、むしろ……私が一体何を知ることができるというのだろうね。
いつか闇の底で、朧な光の中で私を見つめる澄んだ瞳の幻を
私はそれが失われたことを知りつつも、まだ探して続けてしまうはずだから。





もう私の決意が変わらないことを見て取った我愛羅は、
人を退けた風影の執務室で、向き合う私に向かってため息をついた。

「家族という関係を知らないまま育つのは、簡単じゃない」
「……………………」

その言葉はとても、痛かった。
だけど我愛羅はすぐに言葉を続けた。いつになく饒舌に。

「オレたちはいつまでもこの里の子で、その子供も同じく、里が家族だ。
そこに生きる場所を見いだせるというのなら、オレに反対する理由はないが」
「……あたしは、あんたがそう言ってくれるのが嬉しいよ」
「なんだと?」
「別に、何でも」

私はそれを聞いた時に、ああ、これなら大丈夫だな、と確信したんだ。

子鹿のように弱々しく、それでもこの子は生を受けるだろう。
そして立ち上がるだろう。いつか自分の足で。

我愛羅が守るこの里でなら。
その痛みに手を伸ばせないことを悔やんでいたカンクロウと一緒に、
きっと誰よりも強く孤独を知る、あの子が守っているこの場所でなら、
他国の血を持つ子供も独りで生きていくことはないはずで、
里を信じることさえできれば、誰かの声が必ず届くはずで。

だから強く生きろ。もし私がいなくなっても、強く生き続けろ。
お前を庇って死ぬことはできないかもしれない母親だけれど、
お前を愛し、守ってくれる里のために、私は命を捧げるから。






「私はひとりの母としては失格かもしれない、が……」

私は薄暗い資料室の中で、重い腹をそっと撫で擦りながら呟く。

「せめて名前をやろう。それくらいは許せ」

……周囲を見回し、私の手元を覗き込む者がいないかどうか確認してから
私は銭入れに手を伸ばし、すこし皺になった写真をそっと取り出した。

「……そんな間抜け面を覚えられてしまって、いいのか?」

思わず口元に浮かんだ笑みと、ぽたりと落ちる雫のような感情を押し殺すと、
横に置いてあった筆を取り、写真の裏面にさらさらと一文を書き記した。
そして墨が乾くのを待ち、また銭入れの中に写真を戻す。
後は……そうだな、弟たちに託しておけばいいだろう。万が一の時のために。

そして私はまた薄暗い書庫の影に隠れ、報告書と資料に埋もれる仕事に戻る。












砂隠れの里には若き天才忍者がいるという。
現在、里の外交戦略の多くを任されているというくノーで、
いつしか「砂漠の花」という二つ名で称されるようになった存在だ。

彼女が常に肌身離さず持ち歩いている、一葉の写真がある。

————————砂漠の土地では珍しい、それは緑の風景の写真。
散り始めた桜の前で、若い男がけだるげな表情をこちらに寄越している。
古ぼけた写真を裏返すと、そこには手紙のような文句が記されている。






コジカへ
木の葉にいる、お前の父親の顔だ。
やや阿呆面だが、よく切れる男だ。
今まで伝えずにいた私を許せとは言わない。
ただ覚えていて欲しい。お前は愛されて産まれた子で、
私達の子であると同時に、砂隠れの子なのだと。
私はお前の  母親であることを、誇りに思う。
砂隠れのテマリ








漆黒の髪と翡翠の瞳のくノ一がひとり空を見上げる時、
その横顔は、写真の男の面影によく似ている。
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